
「本屋の二階」で仕事をするひと。今回はフリーのデザイナー伊従史子さんに、ご自身の仕事のことや妙蓮寺という街について、お話をお聞きしました。
ー 最近はどんな仕事をされてますか
7月でフリーランスになって1年が経ちました。最近は、新型コロナに向き合うたすけあいプラットホーム「#おたがいハマ」にデザイナーとして携わっています。
#おたがいハマは、官民連携の共創を軸に、横浜市内外のコロナ情報の発信や、コロナによって課題を抱える人と解決できる人とをつなげて、新たなコミュニティを作る取り組みです。
横浜市、横浜コミュニティデザイン・ラボ、YOKOHAMAリビングラボサポートオフィスの3者連携によって生まれました。私はロゴマークや広報物をデザインしています。
そのほかには、#おたがいハマをきっかけに出会ったメンバー達と、
新しい生活に寄り添うWebメディア「はまぐらし」を立ち上げたり、
妙蓮寺に新しくオープンするお菓子屋さんのブランディング、
石堂書店の姉妹店「本屋・生活綴方」の企画運営、
「菊名池古民家放送局」のサイトデザイン、
他県のローカル博物館の企画展用のイラスト作成、など地域に直結する仕事が多いです。

ー デザイナーさんに聞きたいことだったんですが、アイデアはどうやって生まれますか
作業の流れのなかから生まれることがほとんどです。
クライアントのお話を伺いながら、基本的な部分、
クライアントは何をしたいのか?私は何をするのか?から始まり、
どうなったら楽しいのか、誰が嬉しいのか悲しいのか、つかみどころを探すために、紙を使って概要を書き出したり、そこからどんどんアイデアを描いていきます。
特に大事にしているのは、自分に置き換えることと、違和感やもやもやする部分を探すことです。

ー たくさん描かれてますけどアイデアって変わっていくものですか
イメージはそんなに変わらないのですが、ひとつのアイデアから離れるために変わってみることは多々あります。
チープでくだらないアイデアも出すことを大事にしているので、ゆるく考えて脱線もしまくりながら、ひたすら可能性を探ります。
私の中にあるおぼろげなものを、手を動かすことで具現化していく作業になるのですが、落書きやダメなポエムを描いたり、メモしたりもします。
この作業をやらないとアイデアが固まっていかないようです。
ー そのほかにアイデアについて大事にしていることはありますか
実際に現場を見ること、人に会うことです。
私の中で考えたものはただの妄想なので、相手の考えやイメージに立ち戻るためにも、対象の領域や現場に触れることで、新たな視点や思いを感じることが多いです。
クライアントの目線を探さないと、お互いに「違うやん」となるし、暮らしや地域につながる案件は、一緒に蕎麦をすすって、たわいのない話をすることでアイデアに情緒がでてくるように思います。
目線を同じにする意味でもイメージのすり合わせは大事です。
自分が良いと思っているものでも相手はそうでもない時もありますし、それを前提にして新たな方向性が見えてくるので、まず恥をかいてみる。
まだ自分が納得できていない部分があっても、クライアントに出してみると、そこから話が始まって疑問を潰していけるので、「かたくなに考え過ぎていたな…」と気付きます。
私が迷うことは、同じように相手も迷っていたり、まだイメージを言語化できていない場合もあるので、そこはアイデアを出しながらすり合わせて詰めていくしかない、勇気もいるような大事な局面だと思います。

これまでの仕事の一部を見せてくださいました。御朱印風お札、リーフレット、冊子、ブックカバーなど幅広くデザインされているほか、ミュージアムの広報プランの設計や地域の美術系のプロジェクト、ローカルメディアの立ち上げなど企画段階の編集から携わっている仕事もされています。
ー 伊従さんの生活圏でもある妙蓮寺ってどんな街ですか

妙蓮寺いいところですよ〜。
でも、実は昔は妙蓮寺が大嫌いでした。10代20代が楽しめるような場所がない、地元に何もない…がコンプレックスでした。
ところが、大人になってから「妙蓮寺、最高じゃん」に変わったんです。何もないがホッとする安心感に変わっていました。
私がそう思えたのは、前職の会社が一時的にオフィスを持たないノマドスタイルになったことがきっかけです。
オフィスがないので在宅勤務になり、必然と妙蓮寺で過ごす時間が増え、過ごす時間が長くなればなるほど気づくことも増えて、「まちが面白ければ、まちで全部完結できるやん」とふと思ったんです。
その当時も前も、様々な形で地域の仕事をしてきましたが、それは暮らしの視点で見ていなかった、他人事だったと気付きました。
いざ自分の地元を探ってみて思ったのは、「妙蓮寺に足りないものは、自分で作ればいいのでは?」でした。
足りないもの=あったらいいもの、で考えると、まず浮かんだのはスタジオのような場所です。
ふらっと行けて、なにかを作ったり表現したり、誰かが黙々と作業している空間があるといいな〜をひとり妄想していました。
その1年後くらいに、石堂書店さんの「まちの本屋リノベーションプロジェクト」に出会ったんですよね。
ここ「本屋の二階」と「本屋・生活綴方」という新しい本屋づくりに携わりました。現在は生活綴方の運営スタッフもしています。
私の中で妙蓮寺は友達や人を招くような町ではないと思っていたんですけど、「生活綴方」ができたことで自分の友達が妙蓮寺に来てくれたり、興味を持ってくれたことがとても嬉しかったですね。
ー 「生活綴方」というお店ができたことで、同じように考えている人が集まってきてる気がします
そうですね。妙蓮寺の違和感を作る!のが生活綴方の当初の目的でもあったので、お客さんも、お店番のスタッフも個性豊かな方々がお店に集まっているように感じます。
お店にいると色々な人に出会うので、何かを表現している人、したい人が多くいることを感じます。私自身も生活綴方という拠点のようなものができたことで、視野が広がって、この町に何があるのか、以前よりも具体性を持って気になっています。
最近も妙蓮寺で気になっている場所がいくつかあるんですが、なかでも特に"学校"が気になります。妙蓮寺には学校が沢山あるんです。「通学する学生にとって妙蓮寺はどんなまちなのか?駅で何を考えて、今気になることは何か?」妙蓮寺を通り過ぎる若い世代が綴る文章読んでみたいなと妄想してます。
あとは、このまちで完結できる地産地消のマルシェのようなイベントもしてみたい。食べ物ではなくコト・ヒト・モノを軸に地産地消する、シビックエコノミーの実験です。
たまに妖怪祭りとか雪の日限定の雪だるま展覧会とかも織り交ぜたい。どこまで地元を面白がることができるのか…もしかしたらこの町で新しいお祭りのようなことができるのかもしれない、なんて想像したりしています。
ー 「本屋の二階」について教えてください

妙蓮寺の中心部にあるので、駅にもコンビニ、スーパーにも近いし、立地としてとても魅力的です。室内はアンティーク調の家具で統一されいて落ち着いていますし、気取らない居心地の良さがあります。
私は主にデザインの作業やアイデア出しの時に利用していますが、まちの生活音がダイレクトに聞こえるところが気に入っています。
ふとした時に通りすがりの方が交わす挨拶が聞こえたり、近くの保育園から子ども達の歌声がBGMになったり、ニンニクのいい香りが漂ってきたり(笑)、それがノイジーとか嫌な気持ちにはならず、意外に刺激的でもあります。
この土地ならではの雰囲気を感じながら仕事ができるので、ネーミング通り、「まちのしごとば」ですよね。本棚に並ぶ背表紙を眺めてちょっとした息抜きしたりもしています。
ー 「本屋の二階」はどんな時に利用していますか
私は元々が在宅勤務なので、「環境を変えて仕事がしたい」と思った時に、ここに来ています。
「本屋の二階」にいく道中が息抜きになりますし、まちのしごとばで誰かが仕事をしている姿に自身のモードが切り替わる効果もあります。最近は、居合わせた方とちょっとした顔見知りになってお互い静かに「お疲れさまです」と挨拶する、ゆるい関係性が生まれているところも面白いです。
ー 今後の仕事について聞かせてください

これまでの仕事を振り返ってみると、自分がやりたいなと思ったことはだいたい叶えられてることに気付いたんです。
ミュージアムの仕事をやりたいなと思えばお話をいただいたり、地域に視野を広げてみたら道しるべのような方々に出会ったり。無駄に悩みながらも、とてもありがたい環境にいたんだなと感じました。
フリーランスになった今は、会社員時代に見逃されていたクセをどうにかしつつ…、地元妙蓮寺を拠点に「仕事 第2章」を始める気持ちで大いなる実験と失敗を繰り返していきたいと思っています。
# デザイナー 伊従史子